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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)9号 決定

抗告人 山三商事株式会社

主文

本件抗告を却下する。

理由

記録によれば、債権者内藤釀造株式会社及び谷川酒造株式会社は債務者である抗告人を相手方として、東京地方裁判所に対し破産宣告の申立をなし(同裁判所昭和三十三年(フ)第二七四号事件)、かつ破産宣告前の破産財団保全のため本件保全処分の申請をなしたところ、東京地方裁判所は右申請に基き、抗告人所有の商業帳簿及びこれに関する一切の附属書類の占有を解き執行史の保管に付する旨の決定をなしたこと並びに本件抗告は右決定に対するものであることが認められる。

然し破産法一五五条一項の所謂保全処分は、適法な破産宣告の申立があり之に基いて破産宣告を為すに至る迄の間隙を埋めるための保全の措置であつて、申立を却下し又は申立の取下がある場合には、同条項に基いて既に為した仮の処分は職権を以て取消すべきであるが、破産宣告があつた場合には右の仮処分(例へば仮差押・仮処分)は取消を要せず当然消滅すると同時に、破産宣告自体の有する効力(破産法五三条、一四三条一項四号等参照)に移行するものと解すべきである。従つて保全処分として前示商業帳簿及び附属書類を執行吏の保管に付する旨の本件の決定も、若し破産宣告が為された場合には当然に其の効力は消滅し、破産法一八七条の規定によつて裁判所書記官は破産宣告後直ちに右帳簿を閉鎖すると共に、此等帳簿類はすべて破産管財人の占有に移さるべきである。蓋し此等の帳簿及び附属書類も亦破産財団の一部を成すからである(破産法一八五条)。以上の如くであるから破産宣告以後は右の保全処分の取消を求める利益がないと謂うべきである。また破産手続の終了の場合には、右の帳簿等は管財人の占有に在る限り、当然に破産者に返還せられるべきこと勿論である。

しかるところ、本件に於ては、すでに昭和三五年二月八日午前十時に破産宣告の決定があり其後昭和三六年六月二七日破産終結決定がなされたことは、記録編綴の東京地方裁判所書記官本間昌幸及び中嶋俊一の回答書により明らかである。してみれば、本件保全処分は当然にその効力を失つていること前段説示の通りであるから、これに対する本件抗告はその利益を失なつているものというべきである。

よつて、本件抗告を却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木忠一 菊池庚子三 加藤隆司)

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